サウロロフス (学名:Saurolophus) は、約7200万~6800万年前(中世代白亜紀末期・マストリヒシアン前期)に生息していたハドロサウルス亜科のハドロサウルス科に属する草食恐竜で、大型鳥脚類の一属である。大きな尻尾に背の部分の突起を覆う帆の様な皮膚の膜、カモノハシの様な長く平たい口吻部と、頭骨には後ろに伸びる角状の突起があり、アジア・モンゴル地区のゴビ砂漠周辺で、足跡や皮膚の印象を含んだ保存状態の良い化石が発見されている。アジア最大級の恐竜であると言われ、同時代に生息したタルボサウルスと同程度の体躯を保持していたとされる。サウロロフスとは、古典ギリシャ語:σαuροç /szaürosz(サウロス)「トカゲ」+λοφος/lofosz(ロフス)「隆起物」の合成語で「隆起のあるトカゲ」の意。
【生物学的特徴】
骨格標本から推定される成体の体長は発見された種によって異なるが、約9~12m、高さ5m、その体重は概ね2トン程度と推測されている。
サウロロフスの最大の特徴は、尾骨の上から頭頂部上方にかけて伸びているトサカである。1980年代頃までは、このトサカ部分の内部は鼻腔で上まで繋がっており、湖や海などの水中内で今で言う所のシュノーケルの様な役割をしていた/水中で呼吸をする為の空気タンクとして使用していたとされてきた。だが、近年の研究によるとトサカの内部は空では無く、鼻から吸った空気の通り道も存在しないという事が解ってきた。恐らくこのトサカ部分は、種の識別やディスプレイ(求愛行動)などに用いられていた可能性が高いと言う説が現在では一般的になってきている様である。また、鼻腔の周囲には空気を吸った際に風船状に膨らむ様な組織があり、乾燥した空気がそのまま肺に到達しない様にするラジエーターの様な機能があった/また、大きく声を増幅させる部分であったのではないかという説もある。
指先は前足/後ろ足とも蹄(ひづめ)状になっている事などから、サウロロフスは四足歩行をしていた可能性が高い。そして急を要した際は、二足歩行も出来たのではないかと考えられている。またモンゴル地区で発掘された足跡の化石などから、サウロロフスの後脚にあるつま先部はやや内向きであり、前肢の爪は2本だけだったことが分かってきた。
多くの恐竜骨格復元モデルに共通している事項ではあるが、1980年代までは尾を地面につけてバランスをとるポーズ(いわゆるゴジラ型)であったものが、現在では尾を地面につけないポーズへ変更されている例が多い様である。 皮膚は発掘された印象化石(生物の死後、皮膚が泥に押しつけられてできた化石。泥についた皮ふの印象が化石になったもの)より、直径2cmほどの大きな鱗と、直径3~5mmほどの小さな鱗で構成されていた事が分かった。 サウロロフスの口部はカモノハシの様に平たい口を持ち、デンタルバッテリーが発達していた。これは現在の海洋生物であるサメと同じ仕組みで、口の中にヤスリの様な複数の列の歯がならんでおり、使用してた歯が摩耗すると次から次へと歯を交換することが出来る機能である。サウロロフスはその平たい口で植物を摘み取り、すり減ったり折れたりしたら交換される歯で効率よく植物を採取していたと考えられている。 サウロロフスはその巨体から成体に対してはほぼ敵はいなかったと思われるが、幼体や弱った個体はティラノサウルス類であるタルボサウルスなどの獣脚類の餌食となったであろうと考えられている。モンゴルで見つかったS.アングスティロストリス(S.angustirostris)の上腕骨に、当時生息していたタルボサウルスの歯型が残っていたことがそれを裏付ける証拠とされている。
【発見と研究の歴史】
20世紀初頭のアメリカにおいて、最も有名な化石ハンターの一人である、世界で最初にティラノサウルスの化石を発見・発掘をした、バーナム・ブラウン(BarnumBrown.1873-1963)が、1911年にカナダ・アルバータ州でこの鳥脚類化石をほぼ完成形に近い状態で発見。1912年にサウロロフス・オズボルニ(Saurolophusosborni)と命名した。この名称は、アメリカ自然史博物館の古生物学者ヘンリー・F・オズボーン(ティラノサウルスやヴェロキラプトルなどを命名した人物)に因んで名付けられたと言われている。
それから30年以上後の1946年、旧ソ連の調査隊がモンゴルのゴビ砂漠でS.オズボルニとは別のサウロロフスの化石を発見し、1952年にS.アングスティロストリス(S.angustirostris)と命名。※幅の狭い口先の意。
近年では、アメリカ・カリフォルニア州から見つかった化石がサウロロフス属に近い化石であるとされ、2013年にS.モリシ(S.morrisi)と命名された。系統的には上記2種の外群とされている。